説 教

説教「恵みによって」 牧師 指方周平        (2013.6)
招 詞 ヘブライ人の手紙11:1
旧約聖書 イザヤ書49:14~21
新約聖書 マタイによる福音書6:22~34

 

今朝、開いております新約聖書舞台では「だから」という接続詞が3回登場してきます。結果を示していく順接「だから」に続く文章を抜き出してみますと主イエスは「自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと、また自分の体のことで何を着ようかと思い悩むな。」「『何を食べようか』『何を飲もうか』『何を着ようか』と言って、思い悩むな。」「明日のことまで思い悩むな。」と、3度(25,31,34)も繰り返して「思い悩むな」とおっしゃっておられます。これが今朝のキーワードであり、テーマであります。「思い悩む」とは「引き裂かれた心の状態」をも指しております。「思い悩むな」という主イエスの御言葉を思い巡らせながら自分自身を振り返ってみますと、確かに、大小あらゆる類の思い悩みを抱え込んで、絶えず心を引き裂かせている自分に気付かされます。

今朝の聖書舞台において、主イエスは、空の鳥、野の花を、ただ「見なさい」とおっしゃるのではなく「よく見なさい」「注意してみなさい」とおっしゃっておられます。私たちは、目に見えるもの、耳に聞こえるもの、手で触れられるもの、頭で理解できるものだけをとらえがちですが、主イエスの深遠な観察眼は、色がどうとか、大きさや数がどうとか、そういった生物学的な視点だけで鳥や花に注がれるのではなく「種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない。だが、あなたがたの天の父は鳥を養ってくださる。」「栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。」と、どんなに小さく弱い動植物にも、尽きることなく注がれている天の父なる神様の見えない恵みにしっかりと注がれていました。
私たちはしばしば、目に見えるもの、耳に聞こえるもの、手で触れられるもの、頭で理解できるものだけに心奪われ、形や結果ばかりを判断や価値の基準としていますが、「あなたがたは、鳥よりも価値あるものではないか。」「今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか」と示してくださった主イエスが父なる神に寄せていた素直で信頼に満ちたまなざしを思います。私たちの視点を主イエスのように、あらゆる出来事や物事の背後におられる主なる神を仰ぎ直そうと転換する(悔い改める)ならば、たちまち、小さな鳥を養い、明日には焼かれる野の草をも花で彩られる主なる神の圧倒的な恵み、目には見えなかった数えきれない恵みによって守られ、養われてきた現実に、気付かされるのではないでしょうか。

思えば、私たちがいつも祈っている「主の祈り」において、「われらの日用の糧を今日も与えたまえ」という一文に先立って切り出している祈りは、まず「天にまします我らの父よ、願わくは御名をあがめさせ給え、御国を来たらせたまえ、御心の天になるごとく、地にもなさせたまえ」であります。私たちに祈りのお手本をも教えてくださった主イエスは、「何を食べようか」「何を飲もうか」「何を着ようか」といった具合に、日用の心配に思い悩み、あらゆる不満や後悔に心を引き裂かせている私たちに「何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい」と、はっきり、すっきりと勧めてくださっています。

長くとも100年程度の私たちの生涯の旅路において、本当に必要なものは、そう多くはないはずです。この世の旅路に生かされている限り、「主はわたしを忘れられた、わたしの主はわたしを忘れられた」(イザヤ書49:14)と言わんばかりに、様々な迷いや恐れ、人には分かってもらえない孤独や寂しさ、重圧や病といった、バビロン捕囚に例えられる憂鬱な現実に延々悶々と翻弄されることもありましょうが、主イエスが「よく見なさい」「注意して見なさい」と、見えない領域の恵みに気付かせてくださったように、目に見える価値観だけに重点を置く鈍い視点では決して気付かない、主なる神のくすしき憐みと恵みがあります。「わたしがあなたを忘れることは決してない。見よ、わたしはあなたをわたしの手のひら(掌)に刻みつける」(イザヤ書49:15)と約束されているのです。だから何よりも、この見えない恵みの約束と事実を、まず生活の雑踏の中で忘れないように浮き彫りにし(ヘブライ人の手紙11:1)、十字架の絶望の死からも、罪の赦しと永遠の命の希望を紡ぎだすことのできる主なる神の御名が、この地上においてもあがめられ、御心が行われていくように、今週も、遣わされております日常生活の現場で、神の国と神の義を第一に求め、御国の建設のお手伝いをなすためにも、新しい一週間の旅路へと送り出されてまいりたいと思うのであります。
                (2013年6月23日礼拝説教要旨)

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   日本キリスト教団

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